いつもポケットにショパン Always Chopin in Pocket
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このマンガのレビュー
くらもちふさこの絵はすごい。特にカラーは、一度見たら忘れられない美麗さ。絵本ではない、しっかりとマンガとしてのヒロインのかわいさを魅せながら、これから始まる物語への期待を思わせる、特別な存在感がある。本書はかわいいタイトルに、軽やかな恋物語かと油断して読み始めたのだが、読み終わって強烈なショックを受けた。「人はどうしたら成長するのか」がこの本のテーマの一つだと思う。くらもちふさこが描く人物は、いつもどの作品でも、まるで本当にそこにいるかのような重さを持っている。主人公の女の子と、恋の相手である少年の母親同士がライバルという、ジェットコースタードラマのような展開は80年代的な刺激に溢れている。
ピアノの先生に、ライバルである同級生たちに、大好きな幼馴染でありピアノのライバルでもある幼なじみの「きしんちゃん」に、そして自分を認めてくれず厳しい言葉ばかり投げつけてくる母親に、どんな風に立ち向かっていけばいいのかわからなくて泣いたり怒ったりする主人公の弱さにヤキモキする。髪もろくに結べないような主人公が、友人に叱咤され、厳しい松苗先生に怒鳴られ泣かされ、それでも諦めずに、ピアノに感情を乗せ、表現者になった時の表情は、ページを目にしただけで、今思い出しだけでも喉が詰まりそうになる。
「どぎつい」一言を言われても許せる、言い返しても大丈夫と思える家族や、先輩、友人との関係性は、今どれほどの人が保てているのだろうか。
舞台が開発される前の代官山というのも興味を惹かれる。2024年6月に亡くなった建築家・槇文彦の設計で代官山ヒルサイドテラスができたのが1969年。本作品の出版は1995年。代官山アドレスが竣工したのが2000年なので、まだ都市開発が本格的に進む前の、のどかな代官山の街が描かれている。東横線もまだ延伸される前で、渋谷と桜木町を地上で繋いでいた頃だ。