エロイカより愛をこめて From Eroica with Love

From Eroica with Love
えろいかよりあいをこめて
別冊ビバプリンセス(1976年から) 月刊プリンセス(1979年から) プリンセスGOLD(2008年から)
Bessatu Viva Princess, Princess, Princess GOLD
少女漫画誌の中で国際的な東西対立や男同士の微妙な関係を読ませ続ける名作。
A masterpiece within shoujo manga that keeps readers engaged with international East-West tensions and the delicate relationships between men.
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このマンガのレビュー
少女マンガの多彩な魅力が花開いた時代、『エロイカより愛をこめて』もその一翼を担った作品である。主人公は二人の成人男性。美術品コレクターの英国貴族にして、その裏の顔は美術品専門の大泥棒、「エロイカ」ことドリアン・レッド・グローリア伯爵と、NATOのドイツ・ボン支部で情報部を率いる硬派な辣腕エージェント、「鉄のクラウス」ことクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐。彼らを中心に、強烈な個性を持つキャラクターたちが、世界中を縦横無尽に飛び回る。
物語の大枠は、そのタイトルからも察せられるように、「007」シリーズを下敷きのひとつとするスパイ活劇である。各国情報機関のスパイたちが繰り広げる攻防戦に、華麗でミーハーな泥棒貴族が絡んで大騒動を巻き起こす。それが卓越した画力によって、美しく、時にハードに、時にユーモラスに描かれることで、「スパイアクション・コメディ・少女マンガ」という、他に類を見ない独自の作品世界が築かれていく。
シンプルな東西対立構造を背景にした数々のエピソードは、手に汗握る駆け引きが描かれている一方で、混沌を極める今の国際情勢から見ると、どこか牧歌的に映る部分もあるだろう。また、現在の読者には、少佐の言動がやや過激に感じられることもあるかもしれない。しかし、精緻で華やかな画面、一度読者を引き込んだら離さないストーリー展開、さりげなく散りばめられたキリスト教文化や西欧美術についての教養、そして少佐と伯爵の、宿敵であり、友人であり、戦友であり、恋愛的要素すらも含む奇妙な関係性といった本作の魅力は、時代が変わっても色褪せることがない。マンガというメディアが持つ芸術性と娯楽性の両面が、極限まで引き出された一作だ。