ストップ!にいちゃん Stop! Older Brother

このマンガのレビュー
北九州ゆかりの漫画家である関谷ひさしの代表作。毎日新聞社傘下の新九州新聞社で挿絵・カットなどなんでもこなす記者と漫画家の二足のわらじをはいており、上京後は少年誌で活躍しました。主人公の南郷勇一は野球、柔道、水泳とあらゆるスポーツをこなし、頭も良くてタフな中学生。弟の賢二と優しい両親、おっちょこちょいの飼い犬・ボスに見守られながら活躍したり失敗したり、スポーツ漫画であり青春ものでもあり・・・と少年漫画の良いところが全て出てきます。昭和三十年代に普通にあっただろう街路や家、お店の描写が、リアルタイムで読んでない筆者にとって新鮮でもあります。勇一が中学生ながら車を乗りこなす場面は特にテンポがよく、関谷本人が大の車好きでもあったことを考えると、描いている時の作家自身の喜びが伝わってくるようです。後年関谷は青年向けの作品などこみいった画面構成の作品もてがけていますが、「ストップ!にいちゃん」では読みやすくシンプルなコマ割りを徹底しています。
関谷の作品では子どもへの温かい目線が随所に感じられます。戦後の厳しい時代に新聞記者をして子どもたちに漫画を届けていたこと、また出征こそしなかったものの予科練生だった関谷の、若き戦友たちとの思い出がどこかに投影されているのかもしれません。
「ストップ!にいちゃん」の主人公「南郷勇一」はスポーツ万能の中学3年生。野球部のキャプテンでありながら柔道部、拳闘部、サッカー部のキャプテンも兼任しているスポーツ万能な少年。しかし彼のわんぱくでオッチョコチョイな性格のせいで、毎回学校や町内で騒動を引き起こし、その度に聡明な小学生の弟賢二にたしなめられる。1962〜68年まで雑誌「少年」で連載されていた本作は、60年代の少年達の夢や憧れが詰め込まれている。
連載前半のスポーツを中心としたドタバタ劇も大変楽しいのだが、連載後期になると、突然町内に金星人が現れて勇一と対決を始めたり、かと思えば勇一が忍者小説を書きだし、そこからメタ的な忍者劇が始まったりといったトンデモ展開が始まる。作者がスポ根漫画を描き続けていくのに飽きたのか、編集者からの提案があったのかは分からない。僕は関谷ひさしの描く端麗な顔立ちの少年少女たちがシュールな世界に迷いこんでいく連載後期のストーリーのほうが好きである。