欧文作品名読み者原作備考年掲載誌:

TOUCH

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たっち
あだち 充
ADACHI Mitsuru
週刊少年サンデー
Weekly Shonen Sunday
野球漫画かと思わせてラブロマンス。人生と恋が重なってゆく重み、恋のために頑張る男の子の思いが堂々と少年誌で語られる時代がやってきた。
It may seem like a baseball manga at first, but it’s actually a love romance. The weight of life and love intertwines, and the earnest feelings of a boy who strives for love are boldly told in a boys' magazine—a sign that such stories have come to the forefront.
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このマンガのレビュー

『タッチ』ほどカテゴライズに迷う漫画はない。多くの読者は双子の兄弟である達也と和也による朝倉南を巡るラブコメ漫画と捉えて読むであろうが、野球部のエースピッチャー・上杉和也とその双子の兄・達也が甲子園出場を目指す野球漫画と捉えることもできる。ほかにも、野球も恋愛も織り交ぜた高校生の青春群像劇とも言えるし、和也と達也のブラザーフッドとして読むのもおもしろい。『タッチ』のすごいところは、これらのどの側面からも読者の期待を超えてくれるところにある。野球漫画としてもライバルが登場し、恋愛漫画としても双子の兄弟がヒロインを奪い合う構図が自然にできてしまっており、それらが複雑に絡み合うことで10代特有の思春期を見事に表現しているのだ。『タッチ』を読み返すと、登場人物たちの心のゆらぎを表現するときは極端にセリフが省かれていて、かと思えば達也と南のやり取りは言い争うことが多かったりと、セリフ外の表現の巧みさにハッとさせられる。感情表現の濃淡を、言葉抜きにして表現する独特の間や空気感は、あだち充の傑出した才能だ。一番驚くのが、この設定もストーリーも完璧と言っていい作品が、1981年に誕生しているところだ。ラブコメは世代間ギャップが生まれやすいジャンルであり、長く読み継がれる性質のものが少ないなかで、『タッチ』が世代を超えて愛されている理由は、このジャンルをクロスオーバーさせた万能性にあるのではないだろうか。それにしても、スポ根と恋愛を同時に表現する物語がほとんどなかった時代に、あだち充がどのようにしてこの物語を生み出したのかが不思議でならない。

KOROKU Takuya

『タッチ』は、青春、恋愛、スポーツという普遍的なテーマを見事に織り交ぜた名作ですが、その中でも特に印象的なのは、主人公・上杉達也のとぼけた性格と、意外性のある展開の数々です。達也の飄々とした態度や軽妙なセリフ回しは、時に緊張感を和らげ、読者に笑いをもたらします。特に幼なじみの南や弟の和也とのやり取りでは、彼のとぼけた一面が際立ち、ほのぼのとした空気を作り出しています。このユーモアがあるからこそ、物語のシリアスな場面が一層引き立つのです。
その一方で、和也の突然の死は物語全体に大きな衝撃を与えます。和也は達也の弟であり、南や周囲からも信頼される模範的な存在でした。その彼が突然の事故で命を落とすという展開は、読者に深い喪失感を突きつけます。この出来事を機に、達也が弟の夢を背負い、甲子園を目指す決意を固める流れは、私の心を揺さぶりました。
さらに驚かされたのは、達也率いる明青学園がついに甲子園に出場し、物語がクライマックスに向かう中、甲子園での試合自体がほとんど描かれなかった点です。野球マンガでありながら、この構成は、当時のスポーツマンガの常識を覆すものでした。この大胆な選択は、物語の焦点が単なる勝敗や試合内容ではなく、達也が歩んできた道や彼を支える人々との絆にあることを強調しています。
『タッチ』は、笑いと涙、そして意外性を兼ね備えた作品です。達也のとぼけた魅力、和也の死による喪失感、そして甲子園という大舞台の扱い方など、全てが独特のバランスで物語を構成しています。これらの要素が一体となり、『タッチ』は青春マンガの枠を超えた、不朽の名作となっていると思います。

MUKAIYAMA Kazushi

「上杉達也は朝倉南を愛しています。世界中の誰よりも。」「きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。」「一気にいくからな!つぶれるときはいっしょだぜ。」セリフを並べるだけで、一度は聞いたことがある人も多いはず。そして読んだことがある人は、あのシーンの達也や南の表情が思い出せてしまうほど、色濃く記憶に残っているのではないでしょうか。かわってコミカルな日常シーンでは、少し抜けたところがあり飄々としたたっちゃんの振る舞い、そしてそれを放っておけない南とのやり取りが甲斐甲斐しくて癒やされます。

作画に目をやると、野球をしている達也や新体操の南を描く洗練された主線は、キャラクターが実在するかのような説得力を持たせ、体のしなりやしなやかさが美しい。また、キャラクターの魅力に留まらず、景色だけのコマが連続することで、時間の流れ、夏の匂い、太陽が照りつけるマウンド、青春の儚さが、読者にも届き、なんとも心地よい。マンガはどんな季節に読んでも楽しめますが、「タッチ」は夏がよく似合うマンガですね。

OGAWA Tsuyoshi

このレビューを考えているとき、ふと乗換駅で「クレジットカードのタッチ決済で乗車OK」というサイネージ広告が目に飛び込んできた。『タッチ』の連載は1981年から1986年。それから四十余年が過ぎて、訴求力がある作品だというのだから驚くほかない。

『タッチ』の物語は双子である上杉達也と和也、そして幼馴染の浅倉南という三角関係を中心に展開する。双子といえば、文化人類学では、双子はしばしば神話分析の題材として注目されてきた。レヴィ=ストロースは、世界各地の神話を横断的に分析したレジェンドであり双子の物語を多く扱ってきた。代表作『大山猫の物語』は、オオヤマネコとコヨーテに関する南アメリカ大陸の神話を「基軸神話」に設定して思索を出発し、そこに双子の見た目の同一性にこだわる西欧(古典)的な神話的思考——例えばふたご座のカストルとポルックスのような——とは異なる、瓜二つではありえない双子の形象にこだわる南北アメリカ先住民の神話的思考を浮かび上がらせたマスターピースである。

『タッチ』は見た目がそっくりな和也と達也が別々の属性(まじめ/ふまじめ、熱血/怠惰)を与えられて物語が展開する。そう考えてみると、日本のマンガにおいて双子がどのように物語られていったのか、を考えるのは面白いかもしれない。その意味で、『タッチ』は「熱血スポコン」を乗り換えたマンガの金字塔でもあり、日本のマンガ的思考を考えるうえでの基軸神話であるのかもしれない。

HAYAKAWA Ko

双子の男の子たちと幼馴染の女の子による三角関係の恋愛漫画として始まったのにもかかわらず、双子の片割れが物語中盤で死亡して退場するという衝撃の展開で有名な名作です。最初に立ち上げた物語の骨格が途中で粉々に砕かれたことで、多くの読者が凍りついたことと思います。私は、この作品の影響で、夏の入道雲という風景描写に不穏な記号を感じるようになってしまいました。
また、他の多くのスポーツ漫画と異なり、本作品では甲子園出場を決めるまでの地方大会がスポーツ漫画としての舞台であり、甲子園出場決定後の活躍はエピローグ程度しか描かれていません。甲子園という舞台の象徴的な意義があまりに大きいからこそ、成立する構造ではないでしょうか。全国大会というより大きな舞台をほぼ描かずに完結した点に、スポーツ漫画である以上に恋愛漫画であるという本作品の特徴が現れています。
そのような構造の本作品が生み出した「甲子園に連れてって」という名台詞は、今後も“鉄板”の青春物語として様々な作品に引き継がれていくのではないでしょうか。

YAMABE Satoshi

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