欧文作品名読み者原作備考年掲載誌:

Mangatari Maeda

株式会社まんがたり 代表取締役・編集

株式会社まんがたりの代表をしています。昔からマンガが好きで、マンガ家の役に立つ会社を作れたらと思って起業しました。現在はコミックシーモアやLINEマンガなどの会社と提携して連載マンガを編集者として制作しています。マンガの次に歴史とゲームが好き。

レビューの一覧

火の鳥

火の鳥はシンプルに「人の命とは?生きる意味とは?」という問いを読者に問う作品である。1巻から複数巻で1シリーズとなり、オムニバス的に話が進んでいくのだが、共通して出てくるのが、正にタイトルとなる「火の鳥」である。この火の鳥が、人が生きる意味を考える上で重要な"やくわり"がある。火の鳥の血を飲むと永遠の命を得るということである。永遠の命。これは甘美な響きであり、死なないことで無制限に欲望に忠実に行動できるようになる。ただ、この死なないことを獲たキャラクターたちは、多くのシリーズで「生きる意味」をなくす。つまり、人は「死ぬこと」言い換えると「寿命があり、制限がある」からこそ、生きることに一生懸命になれるのではないかと読者に問いかけるのである。人は争い、欲望にまみれ、自分のことを優先する。しかし、協力し、人を助け、他人のために行動することもできる。我々は永遠の命などいらない。本当に得るべきは「人を思いやる心」なのであるということを、様々な角度で問いかけてくれるのが火の鳥である。ちなみに私は歴史が好きなこともあり、「太陽編」がとても好きだ。ときは6-7世紀。日本と朝鮮の戦争(白村江の戦い)があり、日本は大敗を喫する。百済の王族も日本に逃げてくる中で、土着信仰の神と、中国から来た仏教の戦いもあり、日本古来の動物を元とした(蝦夷のような)民族と大和朝廷の争いもある。多くの勢力がそれぞれの欲望に忠実に絡み合いながら進んでいく物語は、歴史を知った後に見るとまた見え方が変わる。何度読んでも面白い味が出るのが「太陽編」なので、まずは歴史を詳しくないときにこそ、初めて見てもらいたい。きっとあなたの人生を何度も彩ってくれるだろう。

キャプテン

一番かっこいい主人公とはどんな主人公だろうか。あなたはどう考えますか。私が好きな主人公は、「自分が決めた目標」に向かって「どんなにかっこわるくても、泥臭くても、時には心が折れて逃げても、サボっても、やめたとしても」。そんなふうになっても【最後は自分を信じて立ち上がり、失敗を踏みしめて成功するまで挑戦する】。そんな姿を見せてくれる主人公が好きだ。もしあなたが、そんな主人公を見たいとしたらキャプテンは絶対に読んだほうがいい。主人公の谷口は中学生で、野球の名門校から、普通の公立の中学校に2年の途中に転校する。転校先の学校で野球部の練習に参加するのだが、名門校から来たことだけが独り歩きしてしまう。しかし、主人公は本当はもともと名門校と言っても「2軍の補欠」だったのだ。勘違いを正そうとするが、機会を得られず、少しでも期待に応えようと影で練習する。そのまま期待を一身に集め、なんと新年度のキャプテンに選ばれてしまう。そこで谷口はようやく言える。「僕は本当は2軍のしかも補欠だったんです。キャプテンなんてできません」。しかし、それを聞いても現キャプテンは言う。「そんなことはお前のプレーを一目見て分かったよ。だけど、今やお前には実力があるじゃないか!影の努力でな」。この言葉を元に谷口はキャプテンになる。そんな中、谷口たちは地区大会に出場する中で、もともとの名門校と対戦が決まる。圧倒的な戦力差から、部員が試合前から負けることを確実視している中で、谷口だけが「どうしたら勝てるのか?」を考え、実行しつづける。この姿勢を見てほしい。そして、試合で諦めない姿勢を見てほしい。キャプテンは文庫本も出ていて、読みやすい巻数なので、ぜひなにか前に進めたいときに見てもらえたら嬉しい。きっとあなたの「立ち上がるきっかけ」となるから。

がんばれ元気

小山ゆう先生の作品といえば、私の世代だと「あずみ」が有名である。しかし、私は「がんばれ元気」のほうがより小山ゆう先生の熱さを感じる。がんばれ元気は、一歩踏み出したくなるときにおすすめの一作だ。一歩踏み出す。とりあえず走り出すことで人生の壁と向き合い、壁にぶつかり、壁に負けないよう立ち上がる勇気をもらえる作品である。ただ、そういった前向きになれるマンガでもあるのだが、ただただストーリーが良いという点もあるので、ぜひ手にとってほしい。この作品は主人公の「堀口元気」が子どもの頃から始まる。父親はうだつの上がらないボクサーなのだが、主人公の元気は父を心から尊敬していた。そして、父親のマネをしてボクサーになることを夢見ていた。ただ、父親は試合で天才児と呼ばれる「関拳児」の前に敗北し、そのまま試合のダメージが深いまま無理に元気と遊びに行った結果、事故的に死んでしまう。祖父母に引き取られた元気は、将来ボクサーになることで父の無念を晴らそうと練習をしていく中で、数々のライバルとあっていくのだが・・・。というストーリー。これがまた本当に面白い!今見ても勢いも、試合の迫力も、そしてライバルや恋仲となる女性、仲間との絆も含めた「人間ドラマ」が面白いのである!令和の今読んでも、色褪せないような「人間の本質」がそこにある。ヒューマンドラマが好きな方に見てほしい一作。「ほっ!ほっ!ほっ!」って言いながら走りたくなるだろう!

Dr.スランプ

鳥山明先生が天才であることを世の中に証明した作品。ドラゴンボールがなかったとしても、Dr.スランプだけで鳥山明先生は天才であることはまごうことなき事実である。Dr.スランプで鳥山明は完成したと思う。見たことがない方向けに簡単に紹介すると、ペンギン村に住んでいた発明家の「則巻千兵衛」は、ある日天才であるがゆえに人型ロボットの「則巻アラレ」を発明する。ただ、アラレは他の人から見るとまったくロボットに見えないため、ペンギン村で学校に通うことになる。生まれたばかりで常識がなかったり知能が低いような行動もしたり、ロボット特有な動きもしつつ、村に馴染んでいく。ドタバタギャグコメディマンガである。ただ、Dr.スランプも1話完結型のギャグパートもあれば、複数話にまたがって話が続くケースも有る。特に、則巻千兵衛のライバルとして現れる「ドクターマシリト」が作る悪のロボットたちとの戦いは見応え抜群!この頃からドラゴンボールの原型があることがわかるのである。ギャグ中心の中でも微笑ましいラブロマンスもあり、キャラの成長もあり、軽い気持ちで安心して、笑いながらマンガを読みたいときにおすすめの一作である。

日出処の天子

これは歴史マンガであって歴史マンガだけでなく、ヒューマンドラマであってヒューマンドラマだけではない。すべての完成度がここまで高い物語は、日本に、世界にどれだけあるだろうか。そう表現するのに一ミリも躊躇しないでおすすめできるのが「日出処の天子」である。主人公は聖徳太子と蘇我蝦夷の2人である。この2人は教科書にも出てくるので、名前くらいは見たことがあるだろう。聖徳太子は遣隋使を当時の中国に送り、その時代アジアの中心的な国である中国に「日出処の天子、書を日没する処の天子に致す」という挑発的な手紙を送ったことは有名である。他にも十七条の憲法や冠位十二階の制定、仏教の振興につくした人物と教えられる。逆に蘇我蝦夷は、蘇我家の棟梁として専横をふるい、息子の蘇我入鹿が殺されると自らの邸宅に火を放ち自害した。その程度が教科書に紹介されている。ただ、その「結果」に至る背景には何があったのか。そこに迫るのが本作である。そう書くと、歴史の学びになるマンガなのか?と思うかもだが、そうではない。この作品の本質は、私は「人は自分を愛せなかったときに、誰かの愛にすがりつく。その愛が"絶対"に報われないと知ったときの絶望。絶望の先に人は行動を起こすのではないか」ということだと思う。人は誰かのために生きることができるのか。それとも自分のために行動するのか。運命と愛、家族と恋、野望と欲望、人間の生きとし生ける「営み」のすべてが入っているのがこの作品である。もしかしたら最初は絵にとっつきにくさを感じる方もいるかも知れない。しかし、この絵でしか演出できない山岸凉子先生の魅力に、すぐに取り憑かれることを保証する。それどころか美しさにひれ伏すことになるだろう。死ぬまでに一度、そして可能ならおとなになる前や、大きな壁にぶつかる前に、読んでほしい作品である。