漫画家残酷物語 The harsh story of manga artists
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このマンガのレビュー
マンガというジャンルは、今や「クールジャパン」政策とされる4.7兆円輸出産業の主要品目となるまでに大きく成長した。しかし、戦前の赤本漫画の時代より、マンガはすでにアート(自己表現)であると同時に、ビジネス(人気商売)でもあるという両方の側面を持っていた。そして、そこに携わる人間(マンガ家)は、決して近いとは言えない両側の崖に足を掛けて、ともすると股裂状態になりながら、創作活動を続けてきたと言える。しかもそれは孤独な作業である。同業者は同じ志を持つ友であると同時に、読者を奪い合う敵でもある。本作の各短編に通底するテーマはほぼこの一点に尽きる。しかも今と比べて、そのジャンルの社会的地位の低さが当時の状況をさらに残酷なものにしたことはあったであろう。そうした状況下で描かれた本作には「本当のマンガが描きたい」「しかし食っていける自信がない」といった、作者の分身たちの股先状態が痛々しいほどのリアルさで描かれている。
永島氏の作品を評して「独特のムードがある」と言われることが多い。片目を白眼にして、その空疎な内面を表すような描写などは独特の感覚を感じるが、決して「雰囲気マンガ」ではない。明確なテーマに向けて、やりすぎと思えるくらいに緻密にプロットを作り込んでいることから、自分の描こうとしているものへの自信と使命感を感じ取ることができる。ただ、その一方で作家本人が本作の登場人物同様に悩み、揺れ続けてきたことは確かであろう。実は筆者にとっての永島慎二初体験は「週刊少年キング」に連載された『柔道一直線』であった。メジャー週刊誌連載で梶原一騎氏とのコンビという、自身のキャリアとしては例外的な作品であろう。この作品がスタートした経緯、その際の本人の談話等は確認できていないが、結局、途中で作画を降板し、別のマンガ家(斎藤ゆずる氏)に交代したという事実は、永島氏が大いなる股裂状態の中でもがき続けていたことの証左であろう。残酷ではあるが、抜けられないくらい魅力的な世界がそこにはあったのだ。