小さな恋のものがたり チッチとサリー Little love story; Chich and Sally
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このマンガのレビュー
約60年間も続いた、まったく小さくない存在感の漫画です。初めて手に取る前は恋が小さいのかと思ったのですが、主人公のチッチが身長132cmというきわめて小柄の女性であることから、二重の意味で「小さな」というタイトルになっているのではと思っています。
一方、チッチの恋人であるサリーの身長は179cmであり、連載開始が1962年であることを踏まえるとかなりの高身長という設定です。私自身もサリーを超える長身なのですが、長身と短身のカップルというのが想像以上に人目につくこと、それも短身である側がより敏感にそのことに気がつくということを経験しており、二人の物語に自身を重ねながらそっと見守るように読んでいました。
基本は4コママンガのスタイルですが、枠線がなかったり吹き出しがなかったり、大きな挿絵が入ったり詩が書かれていたりと、マンガというより詩集を読んでいるような気分になります。雨の日に外を眺めながら読むのが似合うマンガだと思います。
『小さな恋のものがたり』は日本の恋愛漫画史における特別な作品だ。祖母から母へ娘へと読みつがれる漫画はかなり稀有ではないだろうか。筆者は今年後期高齢者となる母の書棚で本作と出会った。
パッとしない女の子・チッチが、モテモテのサリーに一途に想いを寄せ続け、健気に追いかける姿は、瑞々しい恋心と切なさを呼び覚ます。好きな人の行動や言動に一喜一憂し、何気ない瞬間に幸せを見出すチッチに、片想いをした事がある全ての読者は共感するだろう。
一方で、サリーもまたチッチに特別な感情を抱いていることが描かれ、二人の関係は単なる片想いにはとどまらない。純粋な恋心と微妙な距離感に読者は引き込まれる。
また、親友のトンコやその恋人の山下君をはじめとした「身近にいそう」と思わせる登場人物たちが、読者に親近感を抱かせる。
「叙情まんが」と銘打たれた本作では、詩とマンガを組み合わせた独自の表現が使われる。俳句好きの作者が季節感を取り入れる目的で考案したという。随所に登場する詩とイラストのページは、手書きの味わい深い文字とともに読者の心に響く。
物語は1962年より掲載誌を変えつつ2008年まで連載、2014年に一旦の完結を迎えた。サリーが海外留学を決意したことをチッチに伝え、二人の関係に大きな展開が訪れる。「帰りを待たないでほしい」と告げる彼の言葉には、彼女への愛情と葛藤が込められている。夢を追うサリーの決断を受け入れ、涙ながらに彼を送り出し、自らの成長を誓うチッチの姿は「50年以上の恋」を追ってきた読者に深い衝撃と余韻を残した。
作者は半世紀にわたる連載を締めくくったのだが、2018年以降、その後を描いた作品を不定期に発表している。長年の片想いを経て、別れを経験したチッチが、彼の不在の中でどのように日々を過ごし、成長していくのか。二人の関係がどうなるのか。今後も楽しみな作品だ。