サイボーグ009 Cyborg 009

このマンガのレビュー
石ノ森章太郎のライフワークにして、最も広く知られる代表作のひとつ。そのメジャー感は「9人のサイボーグ戦士が悪と戦うSFヒーローアクション」という、王道少年マンガ的要素に支えられる面が大きいが、一方でそのイメージに留まらない魅力を持つ作品だ。
少年院から脱走した主人公・ジョー=009を筆頭に、世界各国から集められ、改造手術を施されたゼロゼロナンバーサイボーグたちは、「行方不明になっても問題とされない」という条件のもと選ばれた、そもそもが「弱者」でもあった。人ならざる戦闘兵器としての側面を持ちながら、だからこそ時に生身の人間以上に繊細で傷つきやすく、その痛みは彼ら同士にしか分かち合えない。このキャラクターたちの持つ個性と関係性が、本作を長く愛される作品として駆動する。
「週刊少年キング」(少年画報社)での連載開始以降、「週刊少年マガジン」(講談社)、「冒険王」(秋田書店)、「COM」(虫プロ商事)、「少女コミック」(小学館)、「月刊マンガ少年」(朝日ソノラマ)、「週刊少年サンデー」(小学館)…と多様な媒体で断続的に執筆された本作は、各編の題材も、現実のベトナム戦争、謎の地下帝国、AIが制御する未来都市、北欧神話、キャラクター個人の日常など、きわめてバラエティに富んでいる。読者の時間感覚を操るかのようなアクション描写や詩的なイメージ演出といった、表現上の革新・実験が数多く見られる点も含め、「マンガ」が拡張していく過程を映す見本市のような作品でもある。
TV、映画、配信とさまざまな形でのアニメ化をはじめ、縦スクロールコミックや2.5次元舞台など、メディアミックスやリブートも幅広く展開される。作品誕生から60年を経た2025年にも、新たなアニメシリーズの制作が決定。時代に合わせたアレンジを施されながら、作品は鮮やかに継承され続ける。