巨人の星 The Star of the Giants
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このマンガのレビュー
ストーリーマンガ第1話のお手本と言える。『スポーツマン金太郎』(寺田ヒロオ著)と同様、実在のプロ野球球団や選手が架空のキャラと共演する構造であるが、昭和33年、球界の大スター長島茂雄の読売巨人軍入団パーティーという最高の場面を冒頭に持ってくるところが上手い。そして彼を迎える次期監督・川上哲治(やはり戦前からの大スター選手)が戦争によって史上最大の選手になり損ねた幻の三塁手、星一徹の話を始める。彼の編み出した魔送球というボールの説明とすると、いきなり会場からその魔送球が長島に向けて投げられる。しかし長島はその球筋を見切って、微動だにしない。それを見た川上は「星一徹がここに居る!?」と思うと、連れて来られた“犯人”は幼い少年。この子がなぜ魔送球を…?――こうして物語は息もつかせぬ展開を見せてゆく。
マンガはフィクションである。ある意味、なんでもあり。野球の試合で9回裏の10点差をひっくり返すのも簡単である。しかし読者に「ウソだろ!」と思われたら、そこで作品の寿命は尽きる。作り事の中にリアリティーをどう持ち込むかが、マンガの勝負処である。そして、そのリアリティーの与え方の一つが、本作でも見られる「すごい奴がすごいと思う奴がすごい」理論である。本作の場合、まず実在のすごい奴を冒頭で登場させ、彼に「魔送球を投げる子供はすごい」と言わせ、続けて「生まれてから毎日のように投球練習をして、同じ壁の穴を通すコントロールを身につけた少年はすごい」「我が子をそう育てた星一徹はすごい」と言わせる。しかも「棒切れでその球を打ち返して、壁の穴に打ち込む川上もすごい」「打ち返されてきたボールをキャッチして投球動作に入る星一徹もすごい」「そんな打ち返しができるのは川上しかいないと瞬時に判る星一徹もすごい」という具合である。このインフレこそが、勝負マンガにリアリティーを与える際の最強手段であると筆者は思っている。