欧文作品名読み者原作備考年掲載誌:

Lone Wolf and Cub

Lone Wolf and Cub
こづれおおかみ
小島 剛夕
KOJIMA Goseki
小池一夫
漫画アクション
Manga Action
日本の時代マンガの金字塔。時代劇は勧善懲悪から大人の文芸作品になった。
A milestone in Japanese period manga. Period dramas have moved from good and evil to adult literary works.
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このマンガのレビュー

幼少期、父の書棚から盗み見た、おそらく人生初の劇画体験だったと思う。復讐、陰謀、肉欲、孤独、そして画の情報量。むせ返るようなリアリズム。今から見れば時代考証も含めて突飛な部分も多く、十分に「マンガ」的ではあるが、80年代後半に自分が読んでいたマンガとは全く異質な「大人の世界」を垣間見た。その劇画は60年代に若者たちの表現として始まり、それまでの漫画に飽き足らず社会や時代を描いた重厚な作品が受けたが、1970年代に入ると学生運動の退潮とともに劇画ブームも終焉を迎え、「暑苦しい」と敬遠されるようになっていったという。
本作はそんな時代の入り口である70年に連載がスタートしたというから、一族や好敵手たちが次々に滅びゆくなか復讐だけを心中に歩み続ける拝一刀と大五郎の親子、そしてその「暑苦しい」絵柄は、そのまま時代に取り残されゆく劇画、そして時流にうまく乗れなかった人々の表象に思える。左翼学生は転向して大企業に入り、生産から消費へと時代の主役が移り、「シラケ」が世の中を覆っていく中で、ある種の熱を未だ抱え持ったままの人々。右肩上がりの資本主義社会で「うまくやる」ことのできない空虚や孤立を感じながら生きる人々。空前のヒットとなった本作において、拝一刀親子が歩む、仇討ちというどこまでも無明の旅路に集ったのは、そんな無数の孤独者だったのではないか。田舎の惣領息子として、己のすべてを「家を守る」ことの中に封じてきたであろう父の、もしかしたら抱えたかもしれないやるせなさも、今にして思う。

ANDO Takafumi

双葉社「漫画アクション」で1970~76年に連載された同作は、私が初めて「原作者付き作品」として読んだマンガだ。小池一夫という「原作者」は当時顔すら知らない中で、実はマンガ家育成塾「劇画村塾」を開催し、その後のマンガ以外の業界も含めたキャラクター・世界観づくりの秀逸なストーリーテラーを多く育てた偉人としても名を残している。『うる星やつら』の高橋留美子、『桃太郎電鉄』のゲームライターさくまあきら、『ドラゴンクエスト』の堀井雄二、『吸血鬼ハンターD』のSF作家菊地秀行、『バキ』板垣恵介、『北斗の拳』原哲夫、『レッド』の山本直樹、『特攻の拓』の佐木飛朗斗、驚くべきことにこれらすべて門下生である。
本作は江戸幕府の公儀介錯人であった主人公が、柳生烈堂に生まれたばかりの子を遺した妻も含め一族皆殺しにされた恨みをはらすため、その我が子をあやしながら暗殺稼業で日本を行脚する話だ。目の前で次々と襲いかかる敵、惨殺を厭わない主人公、そのなかでキャッキャと赤子が遊びまわり、ときには父の手助けをするその「異質感」が本作の衝撃な第一印象であり、その“濃すぎる”劇画タッチに1980年代に幼少期だった自分は一口には受けつけづらかった。だが本作のポテンシャルを私自身が再発見するのは、『Lone Wolf and Cub』として1987年の英語版が日本マンガとして米国で人気を博した第一世代の作品となったこと(大ファンだったマーベル・コミックのフランク・ミラーが無料でいいから表紙絵をかかせてくれと願い出たと言われる)、そして2017年ごろにハリウッド映画のリメイクが画策されたことをもって、である。
強烈なまでに「キャラクターをたてること」にこだわり、それを実践した「子連れ狼」はマンガが「劇画」として新たな映画的手法でジャンルをたてていく黎明を開いた。これ以降、マンガは大人の読了にたえる深い主題やキャラクターを産むメディアになっていく。

NAKAYAMA Atsuo

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