土佐の一本釣り Wild Fisherman in Tosa
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このマンガのレビュー
地方マンガセレクション③
高知県のカツオ漁港久礼(くれ)を舞台にした地方マンガの代表的作品。映画化もされ連載当時絶大な人気を誇りましたが今ではなかなか読まれなくなってしまいました。若い人からは男とは、女とはという役割の決めつけは時代錯誤、地方の持つ伝統と風習が煩わしい、絵柄がスマートでなく手に取る気にならないなど辛辣な声が聞こえてきます。
今の時代、「男だから」「女だから」という性別による役割分担は批判の対象になっています。しかしこの作品をよく読むとこれはカツオ釣りという試練を乗り越えていく男と、それを一緒になって支えていく女の成長記録であることがわかります。今のマンガは「ワンピース」にみられるように多くが主人公の成長の物語です。この作品は現在のマンガの先駆け的な役割を果たしたのではないでしょうか。
地方の伝統や風習はこの時代にすでに消滅しかかっていました。高度成長時代、合理的でないものはどんどん淘汰されていき、真っ先にその対象となったのが地方の伝統的な行事、伝説、風習、方言でした。
それに抵抗するように注目を集めていたのが地域の伝承を掘り起こす「民俗学」という学問でした。その動きに刺激されて失われていく地方の大切な何かを守るため何かをしたい、作者の青柳祐介もおそらくその一人だったのでしょう。最初は「COM 」に投稿して都会派を目指していましたが、自分の故郷である土佐のカツオ漁師町を舞台とした物語を紡いでいくのがライフワークになっていきました。
改めて作品を読み直すと、もう今では消えてしまった漁師町の光景、そこでの伝統行事、男女間の関わり、そして人としての生き様が作者独特の絵柄で見事に捉えられています。
作品世界をもっと知りたければ久礼に出向いて眼前に広がる海と青柳祐介像を見てカツオ料理を楽しむことをおすすめします。