風と木の詩 The Poem of Wind and Trees
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このマンガのレビュー
漫画家なんて仕事をしているくせに、デビューして数年ものあいだ、BLという言葉はおろか、概念すら知らなかった。“やおい”という単語をなんとなく耳にしたことがあるくらい。まわりの女友達、とくに相方の妹尾なんかは「こいつに話したら、捨てられるかもしれない」と思っていたらしく(←酷い偏見だ!)、頑なに黙っていたらしい。そんな僕が『風と木の詩』を知ったのは、「ユリイカ2007年12月臨時増刊号 総特集=BLスタディーズ」だった。そのころはさすがに、どうもそういうジャンルがあるらしい、とうっすらは知っていたけれど、周りはあまり教えてくれない。なのでそのユリイカを、ラインマーカーでテキストを追いながらBLを文字どおり“勉強”した。そのなかで“始祖”として繰り返し登場したのが、この作品だった。もちろん妹尾は持っていた。
ゼロ年代に読んだので、連載当時のセンセーショナルさは体感できない。けれどその分、現代のBL作品はもちろん、僕が普段触れてきた数多くの創作物にも散りばめられている要素が、この一作の中に凝縮されていると気づいた。まるで生物学の系統樹を一気に遡るように「あれもこれも、ここが源流か!」と興奮したのを覚えている。また印象的だったのは、絵の繊細さとは裏腹の強烈な暴力性。いや、あの繊細な筆致だからこそ、より鋭く突き刺さってくると言うべきか。高級工芸品の店内を大きな荷物を抱えて歩くような緊張感を覚えながら読み進め、後半はずっと「セルジュ、壊れないで」と祈るようにページをめくっていた。
“ジャンルを作る”力というのは、単なる創造を超えて破壊にも似たインパクトを伴うのだろう。BLの歴史をここから生み出したという事実に、深く納得する。少女漫画だけでなく、漫画という表現のあり方そのものも、ここから一変したんじゃないか。そう強く感じさせられる。同業者として、この道を切り拓いた竹宮先生には敬意しかない。