欧文作品名読み者原作備考年掲載誌:

Area 88

Area 88
えりあはちじゅうはち
新谷 かおる
SHINTANI Kaoru
少年ビッグコミック
Shōnen Big Comic
異国での戦いの悲しみ、洗練されたメカ描写、シャープな戦闘もののベールで包み込んで魅せる表現は名人技
The sadness of fighting in a foreign land, the sophisticated depiction of mecha, the veil of sharp combat stuff that wraps and enchants is a masterstroke of expression.
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このマンガのレビュー

『エリア88』を初めて知ったのは、実はアーケードゲームからだ。ゲーセンの筐体でシンやミッキー、グレッグの名前を目にしながら、戦闘機を操るシューティングでプレイしていただけで、当時は「マンガの原作があるらしい」くらいの認識。ところが二十歳を過ぎて、愛蔵版を読んでみたら、もうその圧倒的な“熱”に撃ち抜かれた。あの筐体で動かしてたキャラたちが、こんな泥臭くて深いドラマを背負っていたのかと、ページをめくる手が止まらなかった。
もちろん空戦描写にもゾクゾクしたけれど、いちばん好きなのはジョゼとのある朝の会話。子供だからこそ、シンに真っ向から「敵を落とすとき、どんな気持ちになるの?」なんて無邪気に聞いちゃう。そのあとジョゼが焦って謝ろうとするのを、シンが真っ向から受け止めて“殺しの快感”と“生き延びる安心感”について静かに語る。あのころ、2025年にこんな物騒な戦争がたくさん起きているとは思っていなかったけれど、おかげで戦地を思う気持ちの解像度が少し上がっている。
あと外せないのがマッコイの存在感! ゲームでも散々追加兵装を売ってもらった(笑)。 本編でも抜け目ないジジイ感がたまらなく好き。戦場の絶望感をほんの少し和らげつつも、ちゃっかり自分の利益を追い求めるあのバランス感覚こそ、リアルな人間くささなんだと思う。シンやミッキーのギリギリの日常を裏で支えているのは、ああいう“食えないオヤジ”だったりする。
実は今、自分の作品『南緯六〇度線の約束』で戦闘シーンを描いてる最中で、緊張感とどこか狂気じみた空気を出したくて、ついつい『エリア88』の名場面を思い出す。兵器自体の描写ももちろんだけれど、本当に痺れるのは人間そのものが丸裸にされていく瞬間。ゲーセンという戦場で始まった僕の『エリア88』体験は、今では確実に僕の創作の血肉になっている。“人間の戦いのキワ”を描く教科書みたいな作品だと思う。

Ozawa Takahiro(Ume)

航空会社のパイロットとして第一線で働くはずだった風間シン。しかし泥酔させられもうろうとした意識でサインしたのは、アスラン王国の外人部隊の契約書。思いもかけず、シンは空軍で戦闘機に乗ることに。物語は常に戦いの場で、そこで飛び立つマシン、空を駆ける機体にパイロットが命を預けていく様は、メカものに見識のない身でも引きこまれた。そして登場するキャラクターたちのドラマチックな格好良さに、ぐっと心を掴まれる。物語の中心であるシンやサキはもちろん、エリア88に集ってしまった傭兵仲間の面々や武器商人のマッコイ爺さんまで、味わいがあって彼らの軽妙なやりとりに心躍る。

そしてこの作品の女性キャラクターの格好良さにも着目したい。恋人のシンに再び会えることを一心に願って毅然とシンを探し続ける涼子、戦闘機に乗り、潜入工作もこなすセラ、涼子の秘書としてさまざまに手を尽くす安田など、それぞれの立場で戦う美しくかっこいい女性たちの姿も印象的だ。

エリア88に集うものには皆、過去がある。その背景と想いの交錯により、どんなにドラマチックに派手に戦闘機が飛ぼうとも、キャラクターが没するときは胸が締め付けられる。ページをめくれば、かっこよく、面白く、そして愛し合う人がどうか巡りあい、平穏に暮らし続けられるよう願わずにはいられない。

MISAKI Emi

『エリア88』は、中東の戦場を舞台にした新谷かおるの代表作だ。
物語は主人公・風間真が、親友の策略によりアスラン王国の傭兵部隊「エリア88」に送り込まれるところから始まる。
彼は生き延びるために戦い、空を飛び続ける。選択肢のない過酷な戦場での日々が、彼を次第に変えていく。

戦場という非情な世界に生きる仲間たちは、皆どこか人間臭い。
冷徹な司令官サキ、陽気なアメリカ人エースパイロットのミッキー、豪放なグレッグなど、登場人物たちの背景が丁寧に描かれ、それぞれの生き様が物語に深みを与える。
死と隣り合わせの環境に置かれた彼らの行動や選択は、戦争の非情さだけでなく、人間の「どうしようもなさ」を突きつけてくる。
特筆すべきは空中戦の描写だ。戦闘機が飛びかい、敵味方の機銃が火を噴き、爆発音が響く。空を舞台にした戦いという非現実が、現実的な重みをもって迫ってくる。同時にその空は広く自由で、救いのようなものも感じさせる。

この作品の核心は戦争そのものではなく、人間が極限状態でどんな選択をするのか、どう生きるのか、そしてどう死ぬのかということだ。
生きるために殺し、仲間の死を見つめ、それでも自分は生き続ける。それを淡々と描いているからこそ、読者は妙なリアリティを感じる。
戦場での命のやり取りを通して浮かび上がるのは「生きるとは何か」という単純で究極な問いかけだ。死を避けることはできない、ならばどう生きて死ぬべきか。それを問う作品なのではないだろうか。

WASHITANI Yuya

中学生時代に兄が買っていた単行本を読んでハマってしまい、高校時代は少年ビッグコミック(現在のビッグコミックスピリッツ)を定期購読していた作品。
最初の頃は、戦闘機乗りの傭兵、風間真を主人公として中東の戦場を描いた1話完結の作品で、これらのエピソードも魅力的な内容が多かったが、その後戦争や政治的な対立をめぐるたくさんの登場人物による群像劇へと変わってゆき、毎号続きが気になって仕方がなかったのが懐かしい。
本作の思い出も数多く、戦闘機パイロットが主役ながらアフリカ某国でのゲリラ戦的なエピソードも本当にワクワクしたし、初期に登場して作品の中ではあっけなく死んでしまったドイツのパイロット、鋼鉄の撃墜王フーバー・キッペンベルグが、作中を通じて大きな存在感があったことは特筆すべき。彼の愛したドイツワイン「シュタインベルガー」はついつい愛飲してしまう。
戦争賛美漫画との批判を受けていたこともあるが、それは本作をちゃんと読んでない人間の戯言であり、戦乱が止まらない今の時代にこそぜひ若い人に読まれてほしい作品。

FUDETANI Nobuaki

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