欧文作品名読み者原作備考年掲載誌:

MISAKI Emi

マンガ司書

司書として公共図書館やマンガ専門図書館に勤務し、展示やイベントにも関わった。現在はマンガのアーカイブに携わりながら、新聞でのマンガコラム、WEBニュースサイトでの同人誌レビュー等の活動も行う。

レビューの一覧

スケバン刑事

麻宮サキをよく知る神恭一郎は言う。「今、サキがどん底にいるというなら あいつの魂に火がつく直前だ!」と。サキを駆り立てるのは、別れた母への思慕ともうひとつ、サキと同じ若者が虐げられたときの怒りのように見える。サキは特命を帯びた秘密の学生刑事ゆえ、学校に通っても素性を明らかにできない。いつも孤高の存在だ。しかし、サキはひとりでもまっすぐに理不尽さに立ち向かう。 長い髪をひとつに縛り、赤いハイネックを着込んだサキが鉛入りのヨーヨーを軽々と扱い、飛び回る凛とした姿はただただかっこいい!そして神や三平、沼先生といった物語に欠かせないキャラクターたちももちろん、禍々しい陰謀を持ってサキと対立する麗巳や碧子の突き抜けた悪役っぷりにも、いつも間にかわくわくと心を惹かれてしまう。 サキは大きな権力によりかからない。一人で戦いながら、けれどやがてサキの周りにはつながりが出来ていく。サキの凛々しさはいつだって胸を躍らせてくれる。

エリア88

航空会社のパイロットとして第一線で働くはずだった風間シン。しかし泥酔させられもうろうとした意識でサインしたのは、アスラン王国の外人部隊の契約書。思いもかけず、シンは空軍で戦闘機に乗ることに。物語は常に戦いの場で、そこで飛び立つマシン、空を駆ける機体にパイロットが命を預けていく様は、メカものに見識のない身でも引きこまれた。そして登場するキャラクターたちのドラマチックな格好良さに、ぐっと心を掴まれる。物語の中心であるシンやサキはもちろん、エリア88に集ってしまった傭兵仲間の面々や武器商人のマッコイ爺さんまで、味わいがあって彼らの軽妙なやりとりに心躍る。 そしてこの作品の女性キャラクターの格好良さにも着目したい。恋人のシンに再び会えることを一心に願って毅然とシンを探し続ける涼子、戦闘機に乗り、潜入工作もこなすセラ、涼子の秘書としてさまざまに手を尽くす安田など、それぞれの立場で戦う美しくかっこいい女性たちの姿も印象的だ。 エリア88に集うものには皆、過去がある。その背景と想いの交錯により、どんなにドラマチックに派手に戦闘機が飛ぼうとも、キャラクターが没するときは胸が締め付けられる。ページをめくれば、かっこよく、面白く、そして愛し合う人がどうか巡りあい、平穏に暮らし続けられるよう願わずにはいられない。

釣りキチ三平

ページを開くと、しなる竿、三平の伸ばされた手、喜びに飛び上がる体、たくさんの勢いがコマから飛び出してくるのを感じます。そしてその勢いは、美しく描かれた風景の中で一層きらめいて息づいています。釣りが大好きな三平が自然の中でのびのびと魚と対峙する清々しさを、読み手がどこに居てもページのこちらにもたっぷりと味わせてくれます。 釣りというひとつのテーマを柱にしながら、水辺にやってくる人たちとのかかわりも魅力です。一平じいさま、ユリッペ、正治、魚紳さんたち、三平を支える人たち皆が笑ったりふくれっ面をしたり、活き活きと三平の暮らしている世界に連れて行ってくれます。 また、物語には度々、環境汚染や、自然への配慮、伝統的な漁法への取り組みなどが描かれます。真摯に釣りに向き合う三平や周囲の人の姿と、揺れる木々や跳ねる魚の水しぶきの躍動感までもがなめらかな線で描かれることで、釣りのわくわく感も、人間の心の触れ合いも、素晴らしい自然の様子もが調和し、楽しさを持ったまま心に染み入ってくるように思うのです。

垣根の魔女

買い物をしても歯医者に行っても昔馴染みがいるような、栄町に住んで70年のミドリさん。「おせっかいでスゲズケと口が悪いしその上声が大きい」なんて言われながらも、今日も町を歩き、人と人の間に顔を突っ込みます。キッスをキックと言い間違えるような古風なミドリさんですが、とにかく元気、活気、勢いあります!みんながそっとしておくところに猛襲するその姿はパワフルでコミカルで、そして寄り添う優しさがにじみます。 昭和50年代の社会は、アイスキャンディーがふたつで140円になったとミドリさんが嘆き、人と連絡を取るにも郵便の到着をじっと待つような、現代とはずいぶんと違う光景もあります。けれど町の皆や景色が活き活きと描かれるせいか、どこか今でもそう遠くない、身近で朗らかな雰囲気があります。そんな中でミドリさんは戦死した息子のことを何度も思い返すのには、はっと胸を衝かれました。しかし、それすらもけして特別なことでなく、自然体に作品に溶け込み、その痛みが日常にあり、今へと続いてきたことを感じさせます。 ミドリさんは子どもから大人まで、町の誰もに気を配りますが、とりわけ若者に語り掛けます。世代の違うところに入り込んで、ぐいっと背中を押せるのは、大らかなだけでなく、相手の気持ちも状況も見計らう繊細さもあるからです。そんな細やかさも作品の魅力ではないでしょうか。お酒を飲み交わしてうとうとしながらミドリさんは言います。「しっかりやれよ…… ぶざまでもいい カッコわるくてもいい…… 正直で………精一杯だったら…さ……」と。

星のたてごと

きらきらを宿した大きな瞳、登場するのはすらりとした姫や王子。トキワ荘唯一の女性作家である水野英子先生が描く麗しい世界。けれどそこには宮廷の陰謀、星々の神話、そしてロマンス、親兄弟の愛まで、さまざまな要素が織り込まれています。今でこそ少女マンガと言えば恋愛や心の機微を多く扱うイメージがありますが、作品発表当時は少女マンガにロマンスを描くのはタブーとされていたとのこと。しかし、リンダ姫とユリウス、彼女たちを取り巻く人々の気持ちは、突飛ではなくしかも今も色褪せず読者を物語の中に入り込ませてくれます。 そして彼女たちの登場する物語はなんてダイナミックなのでしょう!リンダ姫の可憐なドレス姿にうっとりしたかと思ったら、謀略、戦い、雷鳴とどろく嵐……と息をつかせぬ活劇が続くのです。主人公であるリンダ姫はたおやかさと、危機には自ら飛び出してゆく行動力があります。ピンチの折に、なんとかしなければと思案する彼女の目には強い意志があります。大きな瞳は泣き濡れるだけでなく、自分の生き方を考え、前を向く強さをも伝えてくれているようです。