欧文作品名読み者原作備考年掲載誌:

KAWAMATA Ayaka

漫画・アニメライター

福岡県出身。編集プロダクションを経て2012年から漫画・アニメ分野の企画・ライティング・編集を行うフリーランスとして活動中。

 

レビューの一覧

ど根性ガエル

中学生のひろしと、彼のシャツにカエルが張り付いた“平面ガエル”の「ピョン吉」と一緒に生活することなるという奇想天外な場面から始まる昭和の国民的ヒット作。頭に大きなサングラスを乗せたひろしと、大きな目のピョン吉のキャラクターデザインは今見てもキャッチー。それでいて強制的に1人と1匹がバディとして行動することになる“平面ガエル”の発明。「週刊少年ジャンプ」での連載で見た当時の少年たちは、この新鮮さをもって描かれるドタバタ劇に心掴まれたことだろう。 アニメ化され、キャラクターが製品のCMでも起用され、大人気漫画家として地位を確立した吉沢やすみ。デビュー作の快調な滑り出しの影で、本人も家族も壮絶な状況になっていたことが、彼の娘であり同じく漫画家の大月悠祐子が描いた『ど根性ガエルの娘』で明かされている。どこまでも底抜けに明るい『ど根性ガエル』と、どこまでも胸を衝く『ど根性ガエルの娘』の両方を読むことをおすすめしたい。

漂流教室

この世界は過酷で残酷で、全てが好転する夢のような未来ではないけれど、希望はある。子どもたちの強さを信じ、未来への祝福が込められたSFサバイバル冒険活劇。大きな揺れとともに学校が862人の児童と1人の幼児ごと荒廃した未来に転移してしてしまう。子どもたちはパニックに陥りながらも、生き延びる手段を探そうとするが、ほんの少しの光が見えたかと思えば状況は悪化する一方だ。「第四次世界大戦はこん棒と石で戦われるだろう」と言葉を残したアインシュタインの考えを体現するかのように、状況が過酷になるにつれ槍や斧で戦うようになるのはまるで原始時代。 水と食料、力関係、宗教やパートナーにまつわる争い。荒廃した世界で起きる熾烈な争いは小学生同士ながら社会の縮図だ。こうした争いが人間の原始的欲求で、この状況で子どもの内なるそれが開花したのなら、仲間をつくり助け合い、幼い子は保護し守るその行動もまた人間に備わった本質だと信じたいし、信じさせてくれる。人間は清濁あわせ持つ生き物で、嫌になる時もあるけれど、くさらずに希望を探し続けよう。

ストップ!! ひばりくん!

手のひらで転がされる悦びというものがある。両親を亡くした坂本耕作が住むことになった大空家にいた同じ年の美少女・ひばりは実は男。思わず見惚れ、心奪われるも「ひばりは男なのに」と耕作は葛藤する。脱衣所で湯上がりのタオル1枚だけを巻いたひばりと遭遇する耕作、寝ぼけて耕作のベッドの中に入ってくるひばり。今ではすっかり“ひとつ屋根の下”の定番となったドキドキなシチュエーションも存分に詰め込まれている。 今ならば、性別なんて関係なく誰を好きになろうと、どんなファッションをしようと自由だが、作品が発表されたご時世はその点の様相は違うものだった。「男の娘」なんて言葉もなかった頃だ。それを逆手に取った、この時にしか描けないラブコメディなのだ。この作品において耕作とひばりの関係がどう決着するかは重要ではない。耕作を通して、ひばりの小悪魔な姿にずっと焦らされて、かわいいと悶え続けていたい。永遠にこのままの日常が続いていきそうな最終回もありじゃないか。 話題はそれてしまうが、作者が前ばり姿で登場する漫画は他に見かけたことがない。そういう面でも異色作かもしれない。

へび少女

とある村に住む快活な少女・さつきの家に女が訪れる。雪が降りしきる夜、美しいがただならぬ雰囲気の女、謎めいた発言。これからとてつもない厄災に翻弄されるのだと見る者を巻き取る、ホラーにふさわしい始まり。現実の不穏はただ不安で居心地の悪いものだが、物語の不穏は興奮を高めてくれる。先を予感させ、恐怖に満ちた結果を見せるのはホラーの醍醐味だ。 天涯孤独となり、隣村の裕福な家の養子となったさつきの友人・洋子は“しのばずの沼”に住むうわばみと祖父・中村利平の因縁にとらわれていくさまもまた、不穏な予感からの具体化の連続。この流れの先にある、へび女にアザをつけられたさつきが幻覚を見るシーンは、読者を絶望に叩き落としてくれる。さらにもうひとつ上の絶望、“しのばずの沼”の怒りは、クライマックスにふさわしい絶望感を与えてくれる。ハリケーン、大地震、水害、こうした自然現象に人間は太刀打ちできない。まさにそんな時に感じる無力感と絶望感に似ている。さつきはへびの因縁から逃れられるのか? 短編ながら怒涛の展開。

がんばれ元気

アクション描写の名手・小山ゆう。『がんばれ元気』でのボクシングのアクションもまた、視覚から得られる爽快感で痺れさせてくれる。 映画的な画面構成とコマ割りで動きをわかりやすく伝え、時に無音のスローモーションのコマを挟み込む。デビュー2作目ながら洗練された静と動の使い分け。読むほどにページの上に映像がページの上に浮かび、アクションシーンが極上のエンタテインメントとなる。 堀口元気も気持ちのいいキャラクターだ。父の夢を自分が叶えるという目標を持ち、5歳にして町中で喧嘩を吹っかけてはボクシングで戦う。闘争心はこの頃から剥き出しだ。次第に明らかになる元気の生い立ち、家族の思いと、元気の溌剌さの中に含まれる一抹の悲しみ。それでも元気の元来の明るさは損なわれない。「とうちゃんの夢」を叶えるため明るく優しい少年のまま戦い続ける、いわば“光のボクシング漫画”。 小山といえばデビュー作の時代劇『おれは直角』、戦国末期を舞台に暗殺者の少女を描いた『あずみ』などチャンバラ時代劇を浮かべる人が多いかもしれない。現代が舞台(とはいっても令和の現在からすればもう現代ではないのかもしれない)の親子ドラマでも、小山漫画の魅力がたっぷり味わえるのは間違いない。