柴田 沙良SHIBATA Sara
北九州市漫画ミュージアム 学芸研究員
立命館大学文学部史学科卒業。2009年~2012年、北九州市役所の漫画ミュージアム設立準備に関わりました。2012年から現在まで北九州市漫画ミュージアムの学芸員として勤務しています。「西日本新聞」での漫画ミュージアム職員によるリレーコラム「出会い探検漫画ミュージアム」も担当しています。
レビューの一覧
北九州ゆかりの漫画家である関谷ひさしの代表作。毎日新聞社傘下の新九州新聞社で挿絵・カットなどなんでもこなす記者と漫画家の二足のわらじをはいており、上京後は少年誌で活躍しました。主人公の南郷勇一は野球、柔道、水泳とあらゆるスポーツをこなし、頭も良くてタフな中学生。弟の賢二と優しい両親、おっちょこちょいの飼い犬・ボスに見守られながら活躍したり失敗したり、スポーツ漫画であり青春ものでもあり・・・と少年漫画の良いところが全て出てきます。昭和三十年代に普通にあっただろう街路や家、お店の描写が、リアルタイムで読んでない筆者にとって新鮮でもあります。勇一が中学生ながら車を乗りこなす場面は特にテンポがよく、関谷本人が大の車好きでもあったことを考えると、描いている時の作家自身の喜びが伝わってくるようです。後年関谷は青年向けの作品などこみいった画面構成の作品もてがけていますが、「ストップ!にいちゃん」では読みやすくシンプルなコマ割りを徹底しています。
関谷の作品では子どもへの温かい目線が随所に感じられます。戦後の厳しい時代に新聞記者をして子どもたちに漫画を届けていたこと、また出征こそしなかったものの予科練生だった関谷の、若き戦友たちとの思い出がどこかに投影されているのかもしれません。
陸奥A子の記念すべき「りぼん」本誌デビュー作です。主人公の松実が出会った男の子は誰だったのか?少し謎めいた出会いに始まり、友達ぐるみで仲良くなり、やがて一緒に行動するようになる・・・と、シンプルなストーリーで恋愛と心の交流が描かれて、時代や年齢に関係なく読むことができる漫画だと思います。松実や友達の部屋のさりげないかわいらしさ、キャラクターたちの飾らない笑顔やきれいな言葉遣い、どのコマをとっても優しい雰囲気に満ちています。この機会に改めて作家本人に尋ねたところ、「オイルショックで(りぼん)増刊号が出なくなり、締め切りが決まらず、「雪」の描写が「雨」になるなど長く抱えていました」とのこと。また当時体調が悪くなってしまい、「入院先で締め切りが決まり、入院中のベッドの中で描いたもので色々と思い出深い作品でもあります」と述べられていました。
出会ったことが嬉しくて人生の伴走者になる漫画はたくさんありますが、その中の一つです。