欧文作品名読み者原作備考年掲載誌:

FUDETANI Nobuaki

日本映像翻訳アカデミー(株)取締役, LA現地法人代表

1966年生まれ、物心ついた頃から昭和の漫画にどっぷりとハマって、少年漫画はもちろん少女漫画、青年漫画も幅広く愛読して今に至っております。特に好きな作品は「火の鳥」「エースをねらえ!」「ヒカルの碁」「風雲児たち」など。本業の中で、日本の漫画やアニメの翻訳にも関わり、海外との繋がりも深いです。トキワ荘の先生方の作品にも長く深く親しんできており、この歴史を次世代に世界に伝えてゆくことにも貢献してゆければと願っております。

レビューの一覧

日出処の天子

本作は高校3年生の時、共通一次試験で日本史選択だった自分にとって、飛鳥時代の歴史の理解に役立つとの同級生女子の言葉を受けて初めて読んでみた。最初は、独特の四角いフキダシや絵柄がどうしても苦手でなかなか読み進めなかったのだが、読んでゆくうちに、歴史漫画というよりも、聖徳太子(厩戸皇子)の強いようで繊細なキャラクターに魅了されてゆき、もはや受験勉強はどこへやらと全編を何度も繰り返し読むようになったのが懐かしい。 登場頻度は低かったが鞍作鳥が個人的にはとても好きなキャラクターだった。 その後書かれた続編というか後日談である、馬屋古女王は、読むと物悲しくなってはしまうが必読の作品。本作と、里中満智子「天上の虹」「長屋王残照記」「女帝の手記」を読めば、飛鳥〜奈良時代の歴史はかなりしっかりと頭に入るという点でもお勧め。

エリア88

中学生時代に兄が買っていた単行本を読んでハマってしまい、高校時代は少年ビッグコミック(現在のビッグコミックスピリッツ)を定期購読していた作品。 最初の頃は、戦闘機乗りの傭兵、風間真を主人公として中東の戦場を描いた1話完結の作品で、これらのエピソードも魅力的な内容が多かったが、その後戦争や政治的な対立をめぐるたくさんの登場人物による群像劇へと変わってゆき、毎号続きが気になって仕方がなかったのが懐かしい。 本作の思い出も数多く、戦闘機パイロットが主役ながらアフリカ某国でのゲリラ戦的なエピソードも本当にワクワクしたし、初期に登場して作品の中ではあっけなく死んでしまったドイツのパイロット、鋼鉄の撃墜王フーバー・キッペンベルグが、作中を通じて大きな存在感があったことは特筆すべき。彼の愛したドイツワイン「シュタインベルガー」はついつい愛飲してしまう。 戦争賛美漫画との批判を受けていたこともあるが、それは本作をちゃんと読んでない人間の戯言であり、戦乱が止まらない今の時代にこそぜひ若い人に読まれてほしい作品。

はいからさんが通る

小学生の時に、人生で初めて読んだ少女漫画が本作。それまでは少年ジャンプやマガジンを中心に読んでいて、少女漫画は女の子が読むものだと決めつけていた先入観を打ち破ってくれた、自分の漫画愛読史における貴重な作品。 基本的には主人公の花村紅緒と伊集院忍の2人が織りなすラブストーリーなのだが、爆笑のコメディシーンも満載で、一方で大正時代の様々な歴史上の出来事、米騒動、シベリア出兵、関東大震災などもしっかりと劇中で描いているという歴史漫画の側面も。 この時代の少女漫画だとある意味鉄則の、主人公の女性が、全てのイケメンキャラからの愛情を独占してしまうという点については今読み返すといささかの疑問もあるが、それも含めて、単行本わずか7冊(&番外編)でこれほどのドラマを描いてくれた大和和紀先生には今も感謝しかない。

エースをねらえ!

本作を最初に読んだのは小学生高学年の頃。ちょうどテレビでの再放送が夕方にあり、それが全国的な人気を再燃させ、いったん終了していた本作の続編が描かれ、またアニメも続編が制作されたという点でも珍しい作品だろう。 女子テニスというスポーツ漫画ではあるが、通常スポーツ漫画で必要不可欠な主人公の明確なライバル的な存在がこの作品では見当たらず、試合のシーンよりも日常の練習風景、コーチ、先輩後輩や家族との人間関係、さまざまな出来事を通じての主人公の岡ひろみの挫折と成長を描いていることが本作最大の魅力。 続編が追加で描かれた作品というのは往々にして元のものよりスケールダウンしてしまうことがままあるが、本作は前半の宗方コーチ、後半の桂コーチを中心としたエピソードがどれも味わい深く、20代の2人が放つ名言の数々は漫画を超えた哲学書と言っても過言ではない。作者がのちに宗教家となったのも納得。

火の鳥

手塚治虫作品でも最も有名かつ評価も高い作品の一つで、個人的にも思い出深い。 自分自身は本作は小学生の頃、学校のそばにある公立図書館で熱読。「黎明編」、「未来編」から入り、古代史から未来、人類の終焉と再生に至る壮大なスケールが、わずか一冊の本の中に詰められていたことに深い感銘を受けた。火の鳥は多くの短編から成り、それぞれの短編が過去から未来の様々な人間模様を描いており、各短編が微妙に他の編のストーリーとも関連していることも本当に味わい深い。 自分が特に好きなのは「未来編」、ついで「復活編」だろうか。もちろん他のどの編も魅力的なストーリー。 過去と未来を行き来した最終章としての「大地編」が構想途中で絶筆となったことは本当に残念だが、数多くの漫画作品の中でも自分の中では間違いなく最高傑作のひとつ。絵が古臭いと最初敬遠していたうちの息子や娘も、置いておいたらいつの間にか全編愛読してくれていたのも懐かしい思い出。